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SNSの効果測定でいいね数を主要指標にしている運用は、そろそろ見直しの時期に来ています。理由は単純で、Xのアルゴリズム(投稿の表示順を決める計算方式)が評価している行動と、いいね数がずれてきたからです。そしてこのずれに先に気づいたのは、運用のプロではなくファンの側でした。
2026年7月、一枚のイラストがXで広く共有されました。描いたのは、バーチャルダンサーとして活動する桐谷こむぎさん。内容は「推し活のマナー」で、推しの投稿を見かけたときにやることとして、投稿をタップして本文を読む、リプライを送る、ブックマークに登録する、画像を拡大して見る、といった行動が並んでいました。いいねやリポストだけで済ませる行動は以前ほど効果がない、という趣旨の説明も添えられていたとされています。
この投稿は、半日で1万3千を超えるいいねを集めたと報じられています。特徴的だったのは広がり方でした。最初に共有したのは同じバーチャル系のクリエイターとそのファンでしたが、そこからVTuberや歌手が自分のファンに向けて「リプライはちゃんと見ています」という趣旨の発信を始め、ジャンルを越えて拡散が続きました。
特に反応が大きかったのがコスプレイヤー層です。写真への反応がいいね数に偏りやすく、どう応援すれば喜ばれるのかを持て余していたファンが多い領域でした。そこに「何をすればいいか」が一目で分かる指針が出てきたわけです。単発の話題で終わらず、ジャンルを横断した共通言語のようになりつつあるのが、この一件のおもしろいところだと思っています。
私がここで驚いたのは、内容の正しさではありません。順番のほうです。
Xのアルゴリズムに関する解説記事は、何年も前から出ていました。それでも運用側の指標は動かず、ファンの図解一枚のほうが速く浸透しました。
驚きはしませんでした。ファンは毎日その画面を触っているので、体感で気づくのが早い。一方で運用側は月次のレポートを通してしか数字を見ないので、気づくまでに一か月かかります。見ている頻度が違えば、気づく速度も違って当然です。
ただ、それ以上に大きい理由があると考えています。レポートのフォーマットが、契約とセットで固定されていることです。「いいね数・リポスト数・フォロワー増減」の3点セットで何年も出してきた以上、途中でいいね数の欄を消すと、クライアントには数字を隠したように見えてしまいます。だから現場は、正しさより整合性を優先して古い指標を出し続けることになる。指標が変わらないのは、担当者の勉強不足ではなく、構造の問題です。
ここで一つ、私の考えをお伝えします。「いいねはもう意味がない」という言い方は、正確ではありません。
いいねがまったく付かない投稿は、そもそも配信が広がらないので、深さを測る以前の問題になります。いいねは今も入口の指標として働いている、と捉えるほうが実務に合います。
分かりやすいのは、いいねは多いのに一日で止まる投稿です。パターンは共通していて、一目で意味が完結してしまう投稿——告知画像が1枚だけ、数字を大きく載せただけのもの——は反射的にいいねが押されますが、そこで終わります。逆に、続きが気になる書き方をした投稿や、あとで見返す価値のあるまとめは、初日のいいねが半分以下でも二日目・三日目に伸びてくる。レポートを見ていて怖いのは、前者のほうが月次の数字はきれいに見えることです。いいね数だけを並べると、伸びなかったはずの投稿が優秀に見えてしまいます。
背景情報として補足しておくと、この感覚はファンの実感だけの話ではありません。公開されたXのアルゴリズムを解析した第三者の分析記事では、リプライはいいねの13.5倍、投稿者本人が返信して会話が成立した場合は約150倍、ブックマークは10倍、リポストは1倍、いいねは0.5という重み付けが指摘されています。いずれもX社の公式発表ではなく解析に基づく推定値なので、数字そのものを鵜呑みにはできません。ただ、手間のかかる行動ほど重く評価されるという方向性は、複数の分析でおおむね一致しています。
指標を一つに絞るとしたら、私はブックマーク数を見ます。
リプライではないのか、とよく言われます。ただリプライは、こちらから呼びかければある程度は作れてしまう指標です。「リプで教えてください」と書けば数字は動く。対してブックマークは、読み手が自分の判断で「あとで使う」と決めた行動なので、演出が効きません。投稿が実際に役に立ったかどうかが、いちばん素直に出ます。
私の目安では、いいね数に対してブックマークが1割を超えていれば、その投稿は保存する価値があると受け取られています。逆に、いいねが数百付いているのにブックマークが数件しかないなら、消費されて終わった投稿です。これは私が現場で使っている経験則で、公式に裏付けのある基準ではありません。それでも、投稿を振り返るときの材料としては十分に機能しています。
では実際にレポートをどう変えるか。ここで抵抗が出るのは、意外にもクライアントではなく代理店の担当者側です。新しい指標を足すと「じゃあ先月までの数字は何だったのか」と聞かれるのが分かっているので、説明コストを嫌って現状維持になります。
そこで私が勧めているのは、既存の指標を消さずに一列足すやり方です。いいね数はそのまま残して、その隣にリプライ数とブックマーク数を並べるだけ。「今月から評価軸を変えます」ではなく「今月から見える情報を増やします」と言えば、過去の否定になりません。
見せ方としては、初月は解釈を書かないのが効きます。数字だけ並べておくと、クライアント側が先に「これ、いいねと連動してないですね」と気づく。こちらから説明するより、相手が自分で見つけたほうが早く定着します。
最後に、注意点を一つ。今回の一件を企業アカウントにそのまま持ち込むと、たいてい失敗します。
ファン向けアカウントは、そもそも相手が「役に立ちたい」と思ってくれている状態から始まります。だから行動を指定すると、待っていたとばかりに動いてくれる。桐谷こむぎさんのイラストが広まったのも、指示されたからではなく、やり方が分からなかった人に答えが出たからだと見ています。
企業アカウントには、その前提がありません。ほとんどのフォロワーは、その会社の役に立ちたいとは思っていない。そこで同じことをやると、お願いが並んでいるだけの投稿になります。「リプライしてください」「ブックマークしてください」と書いた瞬間に、数字集めが透けて見えてしまいます。
企業側がやるとしたら、行動を指定するのではなく、行動する理由を先に作る順番になります。保存しておくと後で使える情報を出す。答えたくなる問いを立てる。結果として保存され、返信される。順番が逆になると、うまくいきません。
同じことは、リプライを促す施策にも言えます。うまくいかない典型は「ご意見お待ちしています」で終わっているものです。送ったところで読まれるのかも分からないので、誰も送りません。逆に伸びるのは、送ったリプライがどこかに現れる設計になっている場合です。配信で読み上げる、次の投稿で「こういう声がありました」と引用する、寄せられた質問をまとめて記事にする。自分の言葉が続きに使われると分かると、送る動機が生まれます。集めたリプライを使う予定があるかどうかで、結果はほぼ決まります。
指標の話は地味に見えて、実は制作の話です。いいね数を追っているうちは、一目で伝わる投稿ばかりが増えていきます。リプライやブックマークを見るようになると、続きが気になる書き方や、あとで読み返したくなるまとめを作るようになる。測る対象を変えると、作るものが変わります。
今回の一件がおもしろかったのは、その答えをファンのほうが先に見つけていたことでした。運用側にできるのは、レポートに一列足すところから始めることだと思っています。いいねの数を追うのをやめた日から、投稿の中身は変わりはじめます。