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SNSの「いいね」やフォロワーが金で買えることは、今に始まった話ではありません。アカウントの売買も含めて、以前からある話です。ただ、2026年6月27日に放送されたTBS「報道特集」が伝えた規模には、正直驚きました。新しく作ったXのアカウントに「テスト」とだけ投稿し、ある業者に依頼する。それだけで、その投稿はわずか6分で100万インプレッションに到達したそうです。見た目の数字は本物と変わりません。けれど中身は、機械的に作られたものでした。もし目にしている数字の一部がこうして人工的に作られたものだとしたら、その数字を前提にした意思決定は、どこまで信じていいのでしょうか。結論を先にお伝えすると、大事なのは「本物か偽物かを見分けること」ではなく、「見る場所を変えること」だと思っています。
これが「SNS農場(スマホ農場)」と呼ばれるビジネスです。電波を遮断したシールドルームに大量のスマホの基板を並べ、いいね・フォロワー・再生回数・インプレッションといった数字を人為的に水増しします。報道によれば、取材に応じたのはなんと18歳の理系大学生で、年間の依頼件数は「数千万から数億件」、年間利益は「だいたい45億円くらい」と語っています。もはや個人の副業という規模ではありません。番組では、選挙で「支持されているように見せかける」目的に悪用される懸念にも触れていました。数字が金銭で作れるという事実は、政治の話にとどまらず、SNSで成果を測るすべての人に関わってきます。
このニュースを最初に見たときの正直な感想は、「ここまで安く、速く数字が作れるのか」という驚きでした。効果測定を生業にしている立場としては、数字の裏側を疑うという仕事の重要性が、また一段上がったように感じています。
ただ、ここで一つ、私の考えをお伝えします。よく「怪しい投稿は見分けられる」と言われますが、私は外から本物かどうかを当てるのは難しいと思っています。というのも、インプレッションやいいねが不自然に多い投稿を見かけること自体はよくあるのですが、その数字が農場によるものなのか、それとも広告やブースト(費用をかけた表示の押し上げ)によるものなのかは、外から数字を眺めているだけでは区別がつかないからです。実際、私自身が「これは水増しでは」と相談を受けたことはありません。判別できないまま、手元に残るのは結果の側だけです。
そして厄介なのが、その結果が「いいねは多いのに、コンバージョン(申し込みや購入などの成果)はほぼゼロ」という形で現れることです。この乖離が起きると、クライアントには「施策が失敗した」という印象だけが残ります。しかも成功か失敗かは、KPI(重要指標)をどこに置くかで意味が変わってしまいます。いいね数やインプレッション数をKPIにしていれば、その施策は数字の上では成功です。でも売上には結びついていない。指標の上では成功で、事業の実態としては失敗という二重構造こそ、水増しの本当の怖さだと感じています。
だから私は、無理に見分けようとはしません。私だったら、その投稿の「先」を見ます。プロフィールへの遷移、サイトへの流入、そして最終的なコンバージョン。数を作るのは簡単でも、人の行動や売上まで作るのは難しい。であれば、水増ししにくい結果の側を見るほうが確実だと考えています。
とはいえ、投稿単位で違和感を確かめたい場面もあります。そのとき私が重視するのはリプライの数です。いいねやリポストと違って、リプライはなかなか増やせません。手間のかかる行動ほど、機械的に作るのが難しいからです。あわせて、反応している上位10アカウントほどのプロフィールをざっと眺めます。アカウントの作成日、アイコンの有無、これまでの投稿。人が実際に使っているアカウントなのかどうかは、いくつか並べて見ると、意外と雰囲気で分かるものです。
もっとも、これはあくまで補助的な確認にすぎません。基本の姿勢は、やはり「先」を計測できるようにしておくことだと思っています。投稿から自社サイトへの導線にリンクを一つ挟んでおけば、いいねの数とは無関係に「何人が実際に動いたか」が残ります。数字が作られていても、行動と成果は簡単には作れません。だからこそ、いいねやインプレッションの手前で一喜一憂するのではなく、その一つ先の行動が見える状態を用意しておくことが、遠回りに見えて一番確実だと感じています。
ここはインフルエンサー施策で特に伝えたいところです。よくある失敗が、フォロワー数の多さだけで起用先を決めてしまうことだと思っています。というのも、フォロワーが多いほど、いいねやインプレッションの単価は上がるからです。だから「フォロワーが多いから」という理由だけで発注すると、費用対効果はむしろ悪くなりがちです。
実際、業界の相場ではPR依頼費用はおおむねフォロワー1人あたり1〜2円ほどが目安とされ、フォロワーが増えるほど総額も膨らみます。一方で、フォロワー1万〜10万人ほどのいわゆるマイクロインフルエンサーはエンゲージメント率(投稿に対して反応した人の割合)が3〜5%と高い傾向があり、費用を抑えつつ濃い反応が得られると言われています。私の実感としても、1万フォロワーでもエンゲージメントの高いアカウントのほうが、結果的に効くことは珍しくありません。
施策のあとに起きる「あるある」も付け加えておきます。インプレッションだけは伸びたのに、バズることもなくそのまま埋もれていく、という状態です。リポストはされていても、実際には拡散していない。フォロワーの多いアカウントは一時的にインプレッションを押し上げてくれますが、よほど商材との相性が良くない限り、事業にインパクトを残す施策にはなりにくいと感じています。
インプレッションを稼ぐこと自体が目的になってしまうと、費用対効果は悪くなります。まずは何のためにSNSを運用しているのかを見つめ直し、そこからKPIを設定する。そのうえで、実施した投稿がどんな結果につながったのかを見ていくことで、次の一手に活かせるのだと思います。数字を増やすことより、数字を読むこと。買える時代だからこそ、その差が効いてきます。