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SNSマーケティング

「宣伝ゼロ」の投稿が4回で557万インプレッション──しまじろうに学ぶ、共感バズは運ではなく”設計”だという話

AI博士

約8分で読める記事です。ポイントをギュッとまとめましたので、ぜひ最後までどうぞ!

美容室の椅子に座った着ぐるみが、少し困ったような顔で鏡を見つめている。2026年7月2日、しまじろうの公式Xアカウントが投稿したこの一枚は、数時間で3万いいねを超え、その後さらに伸びていきました。新商品の告知でもキャンペーンでもありません。ただ「美容院にいる」だけの写真です。それでも多くの人が反応したのは、「美容師さんとの会話、何を話せばいいか分からなくて沈黙が気まずい」という、大人なら誰もが覚えのある感覚を、幼児向けキャラクターが代わりに引き受けてみせたからでした。

この一件を「たまたまバズった可愛い投稿」で片づけてしまうのは、少しもったいないと思っています。私はSNSの効果測定を仕事にしている立場から、日ごろ多くの運用担当者や代理店の方とやり取りしていますが、この投稿には「共感で伸ばす」ための再現可能なヒントが詰まっているように見えました。今回は、なぜこの投稿が効いたのかを分解しながら、キャラクターを持たない普通の企業がそこから何を持ち帰れるのかを考えてみます。

何が起きたのか──「宣伝ゼロ」の一枚が広がった経緯

投稿されていたのは、しまじろうが美容師に髪を切ってもらっている最中の写真でした。BuzzFeed Japan などのメディアでも「え、ちょ、ガチ公式!?」という驚きとともに取り上げられ、いいねは執筆時点の3万件台からさらに伸びていきました。コメント欄には「どこを切るの?」といった素朴なツッコミに加えて、美容師側からの「毎回お客さんに何を聞けばいいか悩む」「質問し過ぎて怖がられていないか不安になる」という現場の本音まで集まり、やり取りそのものがコンテンツになっていきました。

見落とされがちですが、これは単発の投稿ではありません。前日の7月1日には、美容院の椅子で雑誌を読むしまじろうに「美容師さんとの会話が苦手みたい」という前振りを添えた投稿があり、いわば連作として組み立てられていました。しまじろうを運営するのはベネッセです。ベネッセはこれまでも、キャラクター「コラショ」がミーム化してバズったのを受けて公式が同じ画像で乗っかるなど、SNS上でキャラクターがどう受け止められているかを継続的に見ながら運用してきた実績があります。つまり、今回の反響は思いつきの偶然というより、キャラクターを生活の中に置く運用の延長線上にあったと見るのが自然です。

私が一番感心したのは「バズを宣伝に切り替えなかった」こと

効果測定という立場でこの一連を見て、私が最初に感心したのは、投稿単体の表現のうまさではありませんでした。キャラクターが一度バズると、多くの企業は「今なら見てもらえる」とばかりに宣伝へ舵を切りたくなります。フォロワーが伸びた勢いで、新商品やキャンペーンの一言を差し込みたくなる。その気持ちはよく分かります。ところが、その一言を入れた瞬間に、共感で集まってきた人たちの熱はすっと引いていきます。しまじろうがすごいのは、バズった後もそこで宣伝に切り替えず、同じ路線の”日常の一コマ”を淡々と投稿し続けたことです。結果として、反響は単発で終わらず、継続的なバズにつながっていきました。この「切り替えない」という選択こそ、いちばん真似の難しいところだと思っています。

「共感できる一コマは、お金をかけた大型キャンペーンより費用対効果が高い」という話は、SNS運用の世界ではよく語られます。ただ、私はこの定説に一つ但し書きを付けたい気持ちがあります。よく「共感バズは狙えない、結局は運だ」とも言われますが、しまじろうのアカウントは似た切り口の投稿を繰り返し当てています。つまり”あるある”は運任せではなく、再現できる型があるのではないか、ということです。

その型を支えているのは、私の見立てでは二つの要素です。一つは、キャラクターが日常に自然に溶け込み、人間と同じように行動して、困っているポイントまで私たちと同じ、という”シュールさ”です。着ぐるみなのに中身の悩みは我々と変わらない、というギャップが笑いと共感を同時に生みます。もう一つは、リプライにかなりの数を返していることです。バズを投げっぱなしにせず、会話として広げていく。この二つがそろって初めて、共感は一過性の花火で終わらずに積み上がっていきます。

「人格を崩さない返信」を、才能ではなく仕組みにする

返信の話をもう少し掘り下げてみます。今回のしまじろうは、返信でもキャラクターの口調や人格を最後まで崩しませんでした。中の人の素の言葉ではなく、あくまでしまじろうとして反応する。すると、架空のキャラクターのはずなのに、まるで実在する友人と話しているような感覚が生まれます。これは企業SNS運用でよく言われる定石の一つですが、問題は「どうやって崩さず続けるか」です。

私が大事だと思っているのは、人格を”感覚”ではなく”ルール”に落とすことです。一人称、語尾、使わない言葉、返信のときのテンション。こうしたものを最初にガイドラインとして言語化しておけば、担当者が交代してもしまじろうはしまじろうのままでいられます。ただ、ルールだけだと返信が機械的になりがちなので、最終的には「このキャラならこう言うよね」と複数人で笑い合える感覚の共有も要ります。属人化をゼロにはできませんが、土台をルールで固めて、その上に人の間合いを乗せる。この二段構えが現実的なのではないかと感じています。

いいね3万を「成功」と呼ぶ前に見るべきもの

ここは効果測定を本業にしている者として、少し立ち止まりたいところです。私が追いかけた範囲では、しまじろうの一連の投稿は4回のバズを重ね、累計で557万インプレッション(表示回数)に達しました。単発の花火ではなく、短い期間にこれだけの到達を積み上げたこと。今回いちばん注目すべきは、実はこの数字だと思っています。1本で557万を出すのは狙って作った企画でもなかなか難しい一方、共感投稿を連作で当てていけば、宣伝費をほとんどかけずにそこへ届いてしまう。ここに、共感バズを”設計”として捉える意味があります。

ただし、いいねやインプレッションそのものは「入口の数字」であって、ゴールではありません。共感で伸びた投稿は拡散力が強い一方で、フォローやブランドへの好意に必ずしも結びつかず、「バズ止まり」で終わることも珍しくないからです。

では今回は何が得られたのか。私が価値を感じるのは、フォロワーが何人増えたかより、継続的にバズったことで生まれた”刷り込み”のような認知効果のほうです。「このキャラクターは何だろう」と調べた人もいたはずで、企業やブランドの認知という意味での宣伝効果はかなり大きかったのではないかと見ています。一過性のフォロワーも増えたでしょう。ただ、平均的な表示回数が底上げされた今、担当者に問われるのは「次に何を継続し、何を定着させるか」という、バズの先にある運用設計のほうだと思います。単発の花火をもう一度打ち上げることではありません。

キャラクターを持たない企業は、何を持ち帰れるのか

ここまで読んで、「うちにはしまじろうのような看板キャラクターがないから関係ない」と感じた方もいるかもしれません。でも、真似るべきはキャラクターそのものではないと思っています。IP(キャラクターなどの知的財産)がある・ないは、実のところ本質ではありません。大事なのは、そのアカウントならではの”特色”を作れるかどうかです。

しまじろうが強いのは、有名だからというより、「どんな場面でどう振る舞い、何に困るか」という人格が一貫しているからです。だとすれば、普通の企業でも、自社アカウントの性格・目線・語り口を決めて特色を立てることはできます。BtoB(企業向けの事業)のような、一見地味に見えると思われがちな業種であっても、その業界の人なら誰もが頷く小さな”あるある”は必ずあるはずです。まずは「うちのアカウントは何者か」を決める。そこが出発点になるように思います。

まとめ

しまじろうの美容院投稿が教えてくれたのは、宣伝要素がなくても、共感できる一コマと一貫した人格があれば大きな広がりにつながるということでした。バズは狙う技術というより、続けられる特色の設計から生まれるもの。共感は演出するものではなく、一貫した人格から自然ににじみ出るもの。そう捉えておくと、次の一手が少し見えやすくなるのではないかと思っています。

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