約7分で読める記事です。ポイントをギュッとまとめましたので、ぜひ最後までどうぞ!
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Xの収益化プログラムが、2026年9月に丸ごと入れ替わります。旧「Creator Revenue Sharing」は9月7日で終了し、翌8日から新しい「Original Content Rewards Program」の申請が始まります。参加条件に「過去90日間で50万インプレッション」という数字が出てきたこともあって、発表直後から反応が大きく広がりました。
企業のSNS運用を担当している方が最初に気にするのは、「これ、うちの運用に影響あるの?」というところだと思います。先に答えを書いておきます。ほとんど影響しません。ただ、ひとつだけ確実に変わるところがあって、私はそこがけっこう大きいと思っています。リプライ欄です。
新プログラムの参加条件は、公式ヘルプによると次のようになっています。18歳以上で対象国に住んでいること、収益化ルールの違反履歴がないこと、X Premium(Xの有料プラン)のいずれかに加入していること、認証済みフォロワーが500人以上いること。そして、過去90日間に認証済みユーザーからのホームタイムライン(Xを開いたときに投稿が流れてくる、あの画面)上のインプレッション(投稿が表示された回数)が50万回以上あること。
話題をさらったのはこの50万という数字でしたが、条件文を読むと、効いているのは数字の大きさより定義のほうです。数えられるのは、Premium加入者による、ホームタイムライン上の、投稿の50%以上が表示されたユニークインプレッションだけ。しかも、リプライから生まれたインプレッションは、この50万には含まれません。
Xはこの変更の理由を「インセンティブがズレていた」と説明しています。報酬の最大化に最適化した投稿ではなく、新しいコンテンツをプラットフォームに持ち込むことに集中してほしい、という言い方です。報酬の対象外になるものも具体的に挙がっていて、他アカウントからのコピー、トリミングやフィルターを足しただけの加工、説明を付けただけのキャプション、価値を加えていない要約やリアクション投稿が並びます。禁止事項には、いいねやリプライを繰り返し求める行為や、botを使って数字を作る行為も入りました。
結論から言えば、企業のSNS運用に与える影響はほとんどありません。企業アカウントは、Xから報酬を受け取るために投稿しているわけではないからです。参加条件が変わっても、運用の目標は動きません。今回の変更は、あくまでクリエイター個人の損得の話だと思っています。
代理店の担当者や事業会社のSNS担当が、9月8日に向けて準備しておくことも、いまのところ見当たりません。申請するのはクリエイター本人であって、企業アカウントの運用フローに入ってくる話ではないからです。
——と、ここで終わってもいい記事でした。ただ、ひとつだけ、企業アカウントの運用に確実に効いてくるところがあります。
もう一度、報酬の数え方を見てみます。対象になるのは、ホームタイムライン上で表示されたぶんだけ。参加条件の50万からも、リプライ由来は外されています。
これが意味するのは、他人の投稿のリプライ欄にぶら下がってインプレッションを稼ぐ、という経路が報酬の設計から外れたということです。日本語圏で「インプレゾンビ」と呼ばれてきた行動は、2023年に広告収益の分配が始まって以降に目立つようになった、と整理されています。人気の投稿にリプライを連投して表示回数を稼ぐ、あの動きです。
企業アカウントを見ていて厄介だったのは、少しでもバズの気配が出た投稿ほどインプレゾンビが湧きはじめる、という傾向でした。伸びはじめた投稿のリプライ欄が、内容と関係のない投稿で埋まっていく。一番多くの人に見られているタイミングで、一番リプ欄が荒れるわけです。
集計する側から見ても、これは面倒でした。エンゲージメント数にはゾンビ由来のリプライも乗ります。数字だけを見れば「反応が多かった投稿」ですが、その中身が施策の成果と呼べるものなのかは、別途人の目で確かめないと判断がつきません。
ここで一つ、私の考えをお伝えします。リプライ欄の荒れは、モラルの問題ではありませんでした。報酬設計の問題です。
インプレゾンビと呼ばれてきた人たちは、特別に異常な人たちではありません。報酬が出る場所に人が集まった。それだけです。リプライで稼いだインプレッションに金額がつく設計だったから、リプライで稼ぐ人が現れた。行動としては、かなり合理的だったと思っています。
だとすると、良識に訴えて解決しようとしていた側が、筋を外していたことになります。実際、Xが報酬の数え方から「リプライ」を外した途端に、この稼ぎ方は割に合わなくなりました。人を変えるのではなく、報酬の置き場所を変える。効いたのはそちらでした。
同じことを、私は自分のサービスでも経験しています。SocialReportというSNS効果測定のツールを運営していますが、「こう使ってください」と説明して回るより、その使い方が一番ラクになるように画面や通知を作り変えるほうが、はるかに確実に効きました。人の意思に期待した設計は、だいたい負けます。行動が変わるのは、そちらのほうがラクになったときです。
そういうわけで、9月8日に向けて企業アカウント側で準備することはありません。申請も対応も不要です。
ひとつだけ考え直す余地があるとしたら、これまで「どうせ荒れるもの」として避けてきた運用のほうだと思います。リプライで応募を受けるキャンペーン。リプライでの問い合わせ対応。ゾンビが湧く前提で設計から外していたものが、条件付きで戻ってくるかもしれません。
もっとも、リプライ欄が実際にどうなるかは、9月7日を過ぎてみないと分かりません。報酬の動機が消えても、報酬と関係なく絡んでくる投稿まで消えるわけではないからです。参加条件を下回ったアカウントがその後どう扱われるのかも、公式ヘルプの記述だけでは細かいところまでは読み取れませんでした。期待しすぎず、9月以降のリプ欄を眺めるくらいがちょうどいいと思っています。
Xの収益化プログラムの入れ替えは、企業のSNS運用にはほとんど影響しません。報酬を受け取る側ではないからです。ただし、報酬の数え方からリプライが外れたことで、リプライ欄にぶら下がって稼ぐ動機は制度から消えました。企業アカウントにとって効いてくるのは、参加条件の数字ではなく、こちらのほうだと思っています。
そして今回の変更が教えてくれるのは、場の荒れ方は人の良識ではなく、報酬の置き場所で決まるということです。荒れているものを直したいとき、直す相手は人ではないのかもしれません。9月のリプライ欄が少しだけ静かになっていたら、それが答えなのだと思います。